2025-07-03
「~したい」を形にするのが
公務員のしごと<後編>

飯能市職員/片野陽介さん 片野陽介(かたの・ようすけ)30代 埼玉県飯能市農業振興課

さらにつながっていく“ご縁”
 前回は、エコツーリズムセクションでの経験をベースに培ってきた「農産物の魅力を発信したい」という思いを、異動先の農業振興課で生産者とクリエイターのマッチングにつなげたことをお話しました。  この取組はその後さらに広がります。マッチングを1対1ではなく、令和4年11月に複数のクリエイターの方を連れて、複数の生産者の方をご案内する「生産者×クリエイターマッチングツアー」を開催することとしました。ツアーにすることで、一度に複数の生産者の方を知っていただくことはもちろん、参加者同士の横のつながりができることを期待しました。  参加対象を、当初の飯能市内の飲食店の方だけでなく、飯能市内外のクリエイターの方にも広げたのは、農産物の魅力について、「食べる」以外の発信の仕方があると考えたからです。また、飯能市外の方には、農産物や食を通じて、飯能市の魅力を知ってほしいと思いました。  なお、当ツアーは、月1回のペースでツアーを開催しておりますが、飲食店の方だけではなく、ライターの方やアウトドア事業者、クラフト作家の方、フレグランスをつくっている方、そして飯能市以外からは、県内ではなく、遠くからは静岡県からご参加いただいています。  「生産者×クリエイターマッチングツアー」を通じて生まれたのは、飯能産の農産物を使ったお菓子やパン、ドリンクなどのコラボレーションメニューの数々です。商品開発にこれまでにない立場の人が関わってくださったほか、クリエイターさんが自分のお店で売ってくれたり、SNSで発信するなど広報の面で活躍してくれました。 写真:生産者さんの説明に耳を傾けるクリエイターさんたち
ツアーを通じて生まれた「くるくるはんのう」
 このツアーでは、たくさんの成果物がうまれ、私も自分のがんばりに手応えを感じ、なにより楽しむことができました。しかし、そこでふと頭をよぎったことがあります。 それは、公務員の宿命である人事異動です。ほかの部署に異動になれば、私はこうしたマッチングツアーに関わることができなくなってしまいます。そこで、人事異動の有無に関係なく、この事業に自身が関わっていく方法を模索しはじめました。手始めに、ツアーのリピーターの方や、事業に共感してくださっている方々を集めて話し合いをしました。  その結果、生まれたのが公民連携チーム「くるくるはんのう」です。チーム名は、メンバーの一人が決めてくれたのですが、かわいいというお声をいただいております。  「くるくるはんのう」は、生産者さんや(市内在住にかかわらない)クリエイターさん、民間企業やほかの団体が関わるチームです。イベントを行うときなどは、市も協力をしてくれるのですが、基本的には「民」のチカラでやっています。ひろく多様な人が参加できるので、たとえ私が異動になっても、事業担当から外れるということはなく、個人で参加しつづけることができるのです。「異動問題」は解決、わたしはこれからも市役所職員として楽しみながらまちを盛り上げていくことができます笑。  そして「くるくるはんのう」としての最初に事業として始めたのが「くるくるはんのうマルシェ」です。  このマルシェは、ツアーを通じて生まれたコラボレーションメニューのお披露目の場として位置づけました。  マルシェを開催するにあたっては、西武鉄道株式会社様や飯能商工会議所様、飯能銀座商店街等多くの関係者のご協力のもと、開催することができました。 写真:規格外の農産物の活用を考えているところです
環境省主催「エコツーリズム大賞」の受賞
 「生産者×クリエイターマッチングツアー」や「くるくるはんのうマルシェ」等の事業に取り組む中で、この取り組みを多くの方々に知っていただきたいと思い、環境省が主催する「エコツーリズム大賞」に応募しました。  前編でもお話ししましたが、これらの取組のベースには、エコツーリズムの理念があります。結果として、受賞いただくことができ、これをきっかけに飯能市、そして取組みについて多くの方々に向けて発信することができました。地元の新聞に取り上げられるなど、じわじわと認知が広がっています。  受賞後も定期的にツアーを実施し、また、飯能市内外の方々に飯能産の農産物や生産者の方々の魅力を発信しています。
これからも「~したい」を形にするために
 メンバーとも話しているのですが、「くるくるはんのう」では今後、活動を通じてうまれたコラボレーションメニューをブランディングしていきたいと思っています。  ひとつのブランドとして確立して、たとえばふるさと納税の返礼品に選ばれるとか、「飯能と言えばこれだね」と思ってもらえるものをつくる。そうした商品が飯能市街で発信されれば、市の認知度を高められるし、何より、「面白いことをしている」ことを知っていただきたいのです。  自分としても、大好きな飯能市のことを、農業を軸足に、魅力発信を継続することを大事にしていきたいです。 さて、先ほども触れたように、公務員には異動があります。自分も、いつかはわかりませんが、農業以外の部署に異動になる日が来るでしょう。仕事の軸足が、今と変わっていくことも考えられます。でもそのときには、どんな仕事をする部署でも、その場所での「楽しみ」を見いだして働いていきたい、と思っています。 「置かれた場所で咲きなさい」 自分が公務員になったときに母がかけてくれた、ある有名な言葉です。 どんな仕事でもおもしろがってやることが、地域の方と価値をつくりあげていくことにつながると思いますし、そうしていくことを目指しています。 写真:直売会の会場でくるくるはんのうの仲間と (片野さんが公務員になった理由や、なぜ農業に関心を持ったのかがわかる「前編」もぜひご覧ください。シゴトパラメータもあり!)
片野さんのプロフィール
2012年に飯能市に入庁。2012年から2019年までエコツーリズムセクション(エコツーリズム推進室が2014年度に観光・エコツーリズム推進課に改組) 、2019年からは農業振興課。 公民連携チーム「くるくるはんのう」のメンバーとしても活動する、通称「席にいない公務員」。 趣味:旅行 ストレス解消法:おいしいものを食べる

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