2025-09-24
公務員として働く魅力と、
業務外活動がもたらす可能性
加古川市職員/栗林正司さん

栗林正司(くりばやし・しょうじ) 50代 兵庫県加古川市環境第2課


 
皆さんは「公務員」にどんなイメージを持っていますか? 安定、堅実、やりがい……いろんな答えがあると思います。 私は高卒で市役所に入り、気がつけば30年以上。異動のたびに新しい仕事を経験し、正直「自分には向かない」と感じた業務もありました。けれど振り返れば、その“苦手な仕事”や“、業務外の活動”こそが、公務員という仕事の魅力を教えてくれたと感じています。
嫌いだった徴収業務が、自分の柱に
“苦手な仕事”とは何だったのか―。かつて私は、下水道経営課で下水道事業受益者負担金の徴収を担当していました。制度自体が市民に理解されにくいうえに、「預金差押え」も経験しました。これは、負担金を払わない人の預金口座を通じて強制的に回収する手続きのことです。生活がかかっている滞納者とのやり取りは精神的にきつく、「もう徴収はやりたくない」と思い、異動希望を出すほどでした。 ところが結果は、まさかの収税課内示。しかもまた徴収担当に……。希望まで出して異動したのに、「取り立て」の仕事は変わらないというのはショックでしたが、「ここまできたらプロを目指そう」と腹をくくり、知識や交渉スキルを磨き続けました。 今では、自治体や研修センターにて交渉術や滞納整理の基礎知識などの講師を務めるようになり、とくに評価いただいているのは“納付交渉”のスキルです。差押えできる立場にあっても、何より大切なのは「聴く力」。相手の状況を丁寧に聴き、納得してもらえる形を探ることで、収納率も上がっていきます。 単にお金を回収するのではなく、相手の人生の立て直しを支援する。そんな誇りを持てる仕事へと変わり、気がつけば私のキャリアの柱になっていました。 学生の皆さんには、ぜひ伝えたい。希望通りの配属でなくても、仕事への向き合い方次第で、自分の可能性はどこまでも広がるということを。
研修は「受ける」だけでなく「つくる」もの
自治体では新人研修や政策づくりの研修、全国の職員が集まる専門研修まで幅広い学びの機会があり、働きながら成長し続けられる研修環境が整っています。 私も以前は受け身でしたが、ある外部研修で「伝え方の達人」と出会い、難しい座学がするすると頭に入っていくという衝撃を受けました。堅苦しいと思っていた研修が、熱意と工夫でこんなにも面白く、人を動かす力を持つのかという気づきが、自分も発信する側へ挑戦するきっかけになりました。 まずは成果発表つきの研修に参加した経験を足がかりに、職員研修を自ら企画・実施する機会を得ました。その内容は、「協働のまちづくり研修」として他自治体も巻き込む実践型の内容に発展し、現在は「まちづくりカレッジ」として形を変えて継続しています。 それから、庁内の関心のある職員たちでともに学ぶ「自主研究活動」にも挑戦しました。ネットワークや企画力を総動員し、著名な公務員を講師に招いたセミナーをカタチにしました。 いまでは周辺自治体からも「加古川の研修は面白いらしい」と注目されるようになり、研修そのものがブランド化しています。講師・参加者ともに面白い人が集まり、「参加すること自体に価値がある」活動へと育ってきました。 公務員の仕事は一見堅く見えますが、研修を通じて自分のやりたいことを形にできる自由さがあります。「学びをつくりながら、自分らしく働ける」それが、公務員ならではの魅力だと感じています。
“貢献力”がチャンスを引き寄せる
私は、自分の業務外活動(いわゆる、アフターファイブの活動です)を「フクギョウ」と呼んでいます。副業に限らず、地域活動、ボランティア、イベント運営、農業体験、講師活動など、多岐にわたります。 一見すると公務員の本業とは無関係に見えますが、イベントで培った段取り力は会議に、地域活動での経験は窓口対応に、と確かに仕事へも還元されています。 「なんで仕事でもないのに?」と聞かれることもあります。理由はとてもシンプルで、楽しいから。楽しさ・ワクワクがあるから無理なく続けられ、人とのつながりも自然に広がっていきます。そして「誰かの役に立ちたい」という気持ちと楽しさが重なることで、不思議と次のチャンスが巡ってくるのです。 私は「最強の2番手」をモットーに、主役よりも裏方で人や場を支えることに喜びを感じています。特別な資格や肩書きはありませんが、誰かのために時間を惜しまない姿勢を積み重ねてきたことで、信頼が少しずつ蓄積されていきました。その“貢献力”が評価され、ありがたいことに新しい出会いや挑戦につながっています。 振り返ると、Give&Giveの精神で動いてきたことが、信頼を複利のように大きくし、「頼まれごと」や「試されごと」として返ってきました。その循環こそが自分自身の成長につながっているのだと実感しています。 写真:ともかく楽しいフクギョウで、人の輪が広がっていく
最後に――公務員という舞台で、あなたらしく輝いてほしい
公務員の仕事は、派手ではないかもしれません。けれど、その現場には人の人生があり、社会課題があり、自分自身を成長させてくれる機会がたくさんあります。 そして、「公務員であること」は、むしろ“自分らしく働く”ことを後押ししてくれる力になるのです。 大事なのは、「やってみる」「試してみる」「ダメならやり直す」。その小さな勇気と一歩の積み重ねが、未来を大きく変えてくれます。 私はスーパー公務員にはなれないけれど、地域のスーパーのレジ横にいて安心を届けられるような「レジ横公務員」にはなれると思っています。あなたも、あなたらしい公務員のカタチを見つけてください。

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