2026-05-15
「常識」の範囲が広がる
生活保護の仕事
大阪市職員/山中正則さん

山中正則(やまなか・まさのり)50代 


 多くの皆さんははじめまして。大阪市で生活保護の査察指導員という仕事をしている山中と言います。  1993年に高校卒の事務職採用で大阪市に入職し、今年で公務員生活も33年目にもなってしまいました。 公務員の異動は「転職」にも例えられることがありますが、私も例に漏れず住民票や戸籍といった一般の方がイメージする「ザ・公務員」のような仕事をスタートに、広報、防災、健康施策と振れ幅の広い仕事を担当してきました。  その中でも私のキャリアの多くを占めているのが、「生活保護」の現場である福祉事務所でのケースワーカーの仕事です。
生活保護現場で事務職が育つ理由
 生活保護は、憲法第25条「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と書かれた生存権を支える制度です。そこで働くケースワーカーのほとんどは社会福祉士や社会福祉主事任用資格を持つ福祉の専門家で、生活に困った人の相談を聞いたり、助言・支援を行う仕事をしています。  生活保護の現場では、生活に困った住民がありとあらゆる相談ごとをケースワーカーに相談してきます。それに対応するケースワーカーは、単に生活保護制度に詳しいだけでは務まりません。  濃密な対人業務であり、直接住民と対峙するケースワーカーはもちろん 、部署の中で経理や総務といったバックオフィスを担当する事務職であっても攻撃的な発言や行動で傷つけられることも多い仕事です。 そういう意味でもあまり異動先として好まれることの少ない部署ですが、この部署を経験した職員は、その後の部署で活躍している職員が多いように感じます。  なぜそんな風になるのかというと、それは「『常識』の範囲が広がる」からではないかと思います。  生活保護の窓口に相談にくる人は、年齢、性別や病気、介護、障害の程度、抱えている問題の大きさも様々です。話を聞くだけで、その全てを理解することは困難で、多くのケースワーカーは自分のこれまでの経験などから持った「常識」を元に判断します。しかし、その「常識」は、相談にくる人の経験などとは重なりません。結果、ケースワーカーは自分の「常識」を広げて、「そういうこともあるか」と考えることを始めます。  例えば、「生活保護費を前借りしたい」などと相談に来ると、ついギャンブルやお酒にでも使ったかと、つい偏狭に自身の「常識」にあてはめてしまいます。ですが、お酒でも昔なじみの友人に会って飲みに行って使い過ぎてしまったのかもしれませんし、家電が壊れ相談するよりも前に買い替えてしまったのかもしれません。中には「推し活」に使ってしまったなどという話もあって、人それぞれの「常識」にそった行動というのは分からないものだなぁと思います。  地方公務員の仕事は、社会生活のありとあらゆるところをカバーする仕事です。そして、その仕事の先には住民がいます。住民一人一人の全てを理解することはできませんが、「常識」の範囲が広がるともっと良い仕事ができるんじゃないか、だから生活保護の部署を経験した職員は他の部署でも活躍できるんじゃないか、なんて思っています。
仕事×趣味が自分の未来をつくる
 「自分のしたい仕事はこんな仕事じゃない」  公務員に限らないとは思いますが、自分が希望する部署に配属されないことは多々あることです。私も希望した仕事には、ほとんどの期間でつくことができず、私のメインフィールドになっている生活保護分野は「やりたかった仕事」でも「好きな仕事」でもありませんでした。  それでも長く続けられたのは、それが仕事だからと割り切ったのではなく、自分の興味のあること、好きなことに仕事をたぐり寄せてきたことだからだと思っています。  仕事と趣味、好きなことが交わることはあまりありません。それでも、自分の興味のあること、好きなこと、得意なことに少しでも仕事が重なるところを見つけたら、それを頼りに仕事をしてきました。  生来のオタク気質で、「無いなら自分でつくる」精神で生活保護の通知や通達を探すための索引集を作っていたら、それが20年後に評価されて生活保護のケースワーカー向けの本を書いたり、研修の講師で呼ばれることになるなんて思ってもみませんでした。今でもゲーミフィケーション(物事にゲームの要素を持ち込むこと)を活用した研修など、自分の好きなことを仕事にたぐりよせることは続けています。  これから公務員になる人や公務員を目指す人には、ぜひ、自分が大切にしていることを中心に、公務員という仕事を見つめてほしいです。 自分の常識が広がった先に、あなただけが掴む公務員の姿があるはずです。 写真:大阪に来てもらったら真っ先に行ってほしいグラングリーン大阪。早朝に散歩したときの写真ですが、大阪駅からすぐの場所でここち良い場所です。
山中的用語説明
・ケースワーカー…主に公的機関で相談・援助業務にあたる人、児童相談所で働く人も「ケースワーカー」と呼ぶこともあるので、ここでは生活保護の現場で働く援助職をいいます。法的には社会福祉法第15条第1項第2号で定められた福祉事務所に配置される現業員(現場の職員のこと)。生活保護を受給している人の家庭訪問をしたり、調査をしたり、他課や庁外の福祉的な機関の方と協力したりと意外とアクティブな仕事です。 ・査察指導員…同じく社会福祉法第15条第1項第3号で定められたケースワーカーの指導監督を行う職員のこと。通称、SV(エスブイ、スーパーバイザーの略)。ケースワーカーが悩んでいるときにアドバイスしたり、日々の仕事の進捗管理をしたりしています。時にはケースワーカーに同行して家庭訪問を行ったりもしますが、事務仕事が多いので「ケースワーカーに戻りたい」という気持ちになることもあります。 ・社会福祉士…高齢者や障がい者、経済的に困っている人など、生活に不安や悩みを抱える人の相談に乗り、助言やサポートを行う「福祉の専門家」。福祉事務所だけでなく、病院や介護施設などで勤める人もいます。福祉系の大学を卒業したり、福祉事務所のような相談・援助機関での実務経験を経て国家試験に合格することで資格を得ることができます。私もようやく受験資格を得られたので、合格を目指して勉強中です。 ・社会福祉主事任用資格…福祉事務所で働くために必要な資格のこと。社会福祉法第18条で、社会福祉士でなくても、大学で社会福祉に関する所定の科目を納めた者や専門の養成機関や講習会の課程を修了することが必要。 写真:天王寺区役所に在籍していたときに、帰り道に撮影した写真。天王寺七坂に夕陽が映える。 
山中さんのプロフィール
1993年に大阪市に入庁。生活支援の現場経験がキャリアの多くを占めている。 趣味:観劇・フォトウォーク ・生成AIなど ストレス解消法:和紅茶を飲んだり、カメラを持っての散歩 写真:自宅そばの中崎町。大阪駅・梅田駅から一駅でレトロな町並みで今は観光客が増えています。 ※3点の写真はすべて、山中さんが趣味のフォトウォークで撮影されたものです。

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